劇映画『友情(仮題)』 シノプシス 2013.12.5
企画 メディアミュージックジャパン
シノプシス 南柱根
PART 0 母が旅だって行った天国、日本へ
韓国、首都ソウル、2002年。漢江の雄大な流れに掛かる橋の上に無数の車が行き交う。街のそこここに「FIFA World cup 2002 Korea-Japan」のポスターやロゴ。 江南地区の高台、高級住宅街にある病院の個室、ベッドに一人の中年女性が座っている。傍らに座って母の顔をじっと見ている9歳の少女、イ・ジヒョン。
「(韓国語)ジヒョン、お母さんはね、生まれたところへ帰るのよ」
「(韓国語)生まれたところ?」
「(韓国語)お母さんが生まれたふるさとよ」
「(韓国語)お母さんは日本で生まれたんでしょ? 日本へ行くの? ジヒョンも一緒に行くの?」
母親はその質問には答えずに、窓の外を見る。
「(韓国語)……日本はいいところだよ」
そっとジヒョンの手をにぎる母。ジヒョンは泣き出したくなるのをこらえ、母が見ているのと同じ窓の外を見る。窓の外、母の命を乗せたように白い鳥が、青い空を上へ上へと上がってゆく。
同じ病室で今は自分が死を待っているーー。
華々しいステージデビューを目前にしてジヒョンは絶望の淵に追いやられた。彼女を母と同じ白血病が襲ったのは、彼女が韓国のダンスボーカルグループ「SPARK」のメインメンバーとして日本デビューを飾る直前だった。
色白の美しい顔も、抜群の脚線美も、今となっては絶望の度合いを深くするだけだった。ジヒョンには死よりもはるかに怖いことがあった。病の治療によって蝕まれて行く自分の体ーーそれを見るくらいなら死んだ方がましだ。母と同じように美しいままで。そうだ、母に会える、愛する母にまた会えるなら、死ぬこともそう怖いことではないか。
死ぬときは日本で……。母はそう思い日本へ帰っていった。ジヒョンはずっと母は天国に行ったのだと聞かされてきた。いつのまにか日本はジヒョンに取って天国と同じものになった。そんなことを考えるとジヒョンには、無性に母の生まれた国、そして帰って行った「天国」――日本への郷愁がつのるのだった。
ジヒョンに治療を放棄させ病院を抜け出すきっかけを与えたのは、SPARKの後輩から来た一通の手紙だった。そこには自分たちが日本に進出することになったという報告とともに、日本で同じ事務所に所属するガールズバンド『ネオ・パンドラ』のCDが同封されていた。あこがれていた日本にSPRAKが進出するという報せに対してなんとも言えない無力感を覚えると共に、ジヒョンは『ネオ・パンドラ』に興味を持った。自分たちとは全く違う音楽性、ファッション……一度この目で見てみたい気がする。病院で死を待つよりも……。ジヒョンは誰にも告げずに病院を抜け出し、日本への飛行機に乗る。
この映画の物語はそこから始まる。
PART 1 親友、そして……
ハードロックの爆音が響く。東京のあるクラブ、ステージで演奏するのはガールズバンドの「ネオ・パンドラ」。ギターの上を激しく動く指、激しく叩かれるドラム、全身で表現するバンドメンバーたち。そのハードな曲に合わせて飛び跳ねる若者たち。
その中に、三人の少女がいる。一人は郭好琳(20・台湾人)、通称スーリン。スーリンのそばで飛び跳ねているのが関根舞子(20)、通称舞子、世田谷大学文学部1年。心から楽しげに飛び跳ねている舞子が視線を送った先に――ジヒョンがいる。ジヒョンは舞子が通う世田谷大学付属アジア学院に入り、二人と知り合った。少し息が上がりめのジヒョンが笑顔で振り向いた先には――武田聡輔(22)。聡輔は舞子の幼なじみで大学の二年先輩。聡輔の隣には聡輔の同級生、田中貴裕(22)。ジヒョンの笑顔を受けて指でサインを送る聡輔。飛び散る少女たちの汗、スモークの中をうごめく光──。
おっちょこちょいのスーリンは一度アジア学院を卒業したが、勤める旅行会社の社長から日本語再学習の処分を受け復学。元からバイト仲間だった舞子と再会。そして二人は日本語が喋れるのになぜか日本語学校にいるジヒョンと知り合う。ジヒョンは言葉遣いが悪くて、人を「オメー」呼ばわりする舞子に何故か惹かれ、すぐに親友になり、舞子に誘われバイトを始める――そのバイトは秋葉原のメイドカフェ、『ふぁーふぁ』。
女に見境の無い聡輔はスーリンとジヒョンに首っ丈で『ふぁーふぁ』の常連。貴裕は舞子にぞっこんで、聡輔にくっついて『ふぁーふぁ』に通う。こうして始まる女三人と男二人のドタバタ劇。
ジヒョンは『ネオ・パンドラ』に出会って以来憧れていたロリ風ファッションを身につけられて嬉しい。そして舞子が『ネオ・パンドラ』のファンであるばかりか、彼女が大学の文化祭に『ネオ・パンドラ』を呼ぼうとしていることを知り、応援し始める。
舞子は音楽が好きで好きでしょうがないが、とてつもない音痴。自分でやることを諦めプロデューサーを目指している。
一見活発で言葉も悪いが実は人見知りで引っ込み思案な舞子の性格を見ぬいたジヒョン、かつて自分もそうだったことを思い出し、共感を覚え、舞子の背中を押す。『ネオ・パンドラ』のマネージャーへの直談判、しかし歯牙にもかけられず一蹴されてしまう舞子。
「諦めちゃダメ、絶対」
ジヒョンは一見軽くてチャラい聡輔に惹かれてゆく自分に気がつく。しかしジヒョンは舞子が内心聡輔のことを思っていることに早くから気づいていた。病気のことも含め自分の気持ちに困惑するジヒョン。スーリンは、ずっと前から貴裕のことが好きだった。しかし貴裕があからさまに舞子への好意を見せるため、敢えてその気持から目をそらしていた。複雑な状況をはらみながらもジヒョンは舞子の家に居候を始め、友情の度合いは深まっていた。
そんなある日、ふとした事件をきっかけにして、聡助はジヒョンの病気のことを知ってしまう。そうなって初めて聡輔は自分がジヒョンのことをに心から好きだということに気がついた。
PART 2 ジヒョンの白血病を知った聡輔は――
ジヒョンは、急性骨髄性白血病であった。しかし、裕福な家庭にも拘わらず、骨髄バンクにも登録していなければ、アメリカなどに渡って最新の医療を受けようともしていなかった。その理由がわからずに困惑する聡輔。どうしてやることも出来ない自分がもどかしい。ジヒョンを強引に病院につれてゆくことも、ジヒョンに対して病院に行けということも出来ない自分。
一方ジヒョンは聡輔がすべてを知っていることに早くから気づいていた。
聡輔を慮ってか、ジヒョンは5人で海に遊びに行ったある日、舞子の質問をきっかけに総てを告白する。
「ジヒョンさあ、なんで日本語ぺらぺらなのに、日本語学校に来てんの?」
「私のお母さんは在日韓国人で、韓国語が苦手で苦労してたからさ、今度天国で私が会ったら、完璧な日本語で私が話してあげたくて」
ジヒョンは母が白血病で日本で死んだこと、そして自分も白血病で長くは生きられないことを告白する。
ジヒョンは言う、日本は母が旅立っていった「天国」だ。自分は今、その天国にいる。母のところへいける、母に会えると思うから、死ぬことは怖くない。抗ガン剤や放射線で、毛が抜けたり、辛い治療をするのはまっぴらだと。
「ドナーがもしいれば助かるんだろ」
「私はもう、天国に来ている。天国でドナーを探す馬鹿はいない」
重い事実に打ちひしがれる舞子。
そんな中でスーリンは――ジヒョンのこともさることながら、貴裕への恋焦がれる想いをどうすることも出来ずにいた。ある日、突然、貴裕にサヨナラの言葉だけを残してみんなの前から姿を消すスーリン。
なんのことかわからない舞子にジヒョンが言う。
「私にはスーリンの気持ちがわかる。自分が好きな人は自分ではなく他の子が好き。それが自分の親友……つらいね」
PART 3 台湾へ
舞子はスーリンが勤めていた会社に行き、スーリンが台湾の実家へ帰ったことを知る。
即座に台湾行きのチケットを買おうとする舞子に聡輔が言う。ジヒョンも一緒に台湾に連れて行こう、このまま「天国」である日本にジヒョンを置いておくよりも、少しでも気分を替えるためにも。
舞子はその言葉に得も言われぬ不安を覚えるが、スーリンのことが心配なジヒョンは快諾する。こうして三人は台湾へ行くことになった。
出発の直前、ジヒョンが舞子に言う。
「私にはもう時間がない。行きたいところがあるの」
舞子は、ジヒョンが日本に住むジヒョンの母の妹、伯母のところへ行くものと思い、ほっとする。治療受ける気になったのか思ったからだ。しかしジヒョンが舞子を連れて行った先は――『ネオ・パンドラ』の事務所『ライトニング・プロ』。
マネージャーのヒカリに直談判するジヒョン、しかしやはり一蹴される。
偶然にもそこでジヒョンは、自分がリーダーをやるはずだったKPOPユニット『SPARK』のメンバー、ユナと出会う。
そのことで舞子はジヒョンの過去の経緯を知るとともに、彼女の無念さをも知ることになった。
自分の死期を悟ったジヒョンは、自分のことよりも舞子の夢を実現することを真っ先に考えてくれた、そう思うとこみ上げてくる友情、しかし何もしてやれない自分、そして聡輔とジヒョンの関係――舞子の苦悩は深まる。
台湾に着いた三人は意外にも元気なスーリンと再会する。
「ホームシックだったみたい。家族の顔見て美味しいもの食べて、で、今舞子とジヒョンの顔見たら吹っ飛んだ」
ほっとする舞子たち、スーリンの案内で台湾観光を楽しむ。グルメ、故宮、新幹線etc……。屋台で台湾料理を食べながら舞子が言う。
「今度は韓国行こうよ、ジヒョンの案内でさ」舞子が食べながら言う。
「サムゲタンに石焼きビビンバにプルコギ……」聡輔が言う。
「食べ物だけか、オメーはよ」と、舞子も頬張りながら言う。
ジヒョン、その二人の姿を見て微笑む。
「ソウルで最高のサムゲタンの店知ってるよ」
「そうかー絶対な、行こうな」
スーリンは実家に寄るため、舞子たちより遅れて帰ることになった。三人が日本に帰る前の日、実家のそばにいいエステがあるからとスーリンが舞子とジヒョンを誘う。ジヒョンは、鬱血するからエステなど無理だと断る。
舞子は、自分が行けば聡輔とジヒョンが二人きりになることはわかっていたが、敢えてそうすることを選ぶ。自分は何をしたいのか、ジヒョンに同情しているだけなのか――そんな葛藤に苦しむ舞子。
二人になったジヒョンと聡輔は街を歩く。急に普段とは違いギクシャクした関係になってしまう二人。
「ジヒョン……ちゃん」
「?……」
「言いたいことがあるんだ……山ほど」
「私も聡輔に言いたいことがあるよ。1つだけ」
「なんだよ」
「聡輔が一番言いたいことと同じだったらいいな」
「一番言いたいこと?」
「山ほどのことは聞かなくてもわかる」
「まあ……」
「一番言いたかったことだけ言って」
「先にジヒョンの言いたいこと言えよ」
ジヒョン、黙って歩を進める。手摺にもたれて横に並ぶ二人。周囲には誰もいない。
「韓国語でどう言うんだ……」
「どう言うって……」
「今、俺が言いたいこと、おまえが言ってほしいこと」
「聡輔、初めておまえ、って呼んだね。舞子にだけかと思った」
「はぐらかすな。どう言うんだよ」
ジヒョン、体を聡輔に向け正面から見つめる。
「ナン、ノル、サランヘ」
「だめだ、やっぱわかんない」
「そう? わからないはずはないでしょ。翻訳して」
ジヒョン顔を見ずに言って、歩き出す。聡輔も並ぶ。
「……俺はおまえが好きだ」
二人、互いに顔を見られずに、うつむいたまま歩き続ける。ジヒョンの手がそっと動き、聡輔の腕を掴む。行き止まりの高台に出る二人。遠く見える港の夜景が美しい。二人、正面から見つめあう。聡輔、なんの言葉もないままジヒョンにキスをする。
ぎこちない、キス……。
ジヒョン「待って……舞子のこと……」
聡輔、その言葉には答えずに更に激しくジヒョンを抱きしめる。答えるジヒョン。
こうしてその夜、二人は結ばれる。
翌日、二人に何があったかを悟った舞子は羽田までの帰路、一言も口を聞けない。
羽田空港、舞子と聡輔が出てくるが、お通夜のような気不味い空気。入管で遅れてくるジヒョン。やっとのことで口を開く舞子。
「オメーさあ、同情なんてしてねーよな」
「同情? ……相手が死ぬとわかってて同情で? 見損なうなよ」
「同情じゃねーんだ……そうか」
舞子の目から涙が溢れそうになる。舞子は、ジヒョンを待たずにに行ってしまう。
遅れて出てきて、舞子がいないことを知るジヒョンの顔にある決意が宿る。
その日を最後に、ジヒョンはみんなの前から姿を消してしまった。自分が取った態度に
後悔する舞子は聡輔と共にジヒョンの行き先を探すが――その時になって初めて自分たちはジヒョンのことを何も知らなかったことに気がつく。
ジヒョン! 高架の上で叫ぶ聡輔の声が電車の轟音にかき消される。
そして――教会の鐘が鳴り響く。
一年の時間が経過する。
都内のある教会。ジヒョンの葬儀が行われている。親族たちが参列し、神父が祈りを捧げている。祭壇には笑顔のジヒョンの遺影。その下の棺に綺麗な顔で横たわるジヒョンの亡骸。
と突然、四人の若者が入ってくる。舞子、スーリン、聡輔、貴裕。参列者達がなにものかと怪訝な顔で振り返り凝視する。
四人、どんどん、祭壇の方へ近づく。緊張が高まる参列者たち。四人、境界を乗り越えて遺骸のそばに行く。騒ぎになる参列者たち。
「誰かあの若造たちを止めろ」
屈強な男たちが三人、舞子たちの方に向かう。その時、韓国語で「待て」と声がかかる。
声をかけたのは、ジヒョンの父、イ・ジョンテ(58)。ジョンテ、じっと立って舞子たちを凝視する。舞子たち、ジョンテを見つめて、頭を下げる。
「(韓国語)君は舞子か」
韓国語がわからない舞子、きょとんとしている。
「(韓国語)その子たちはジヒョンの友達です」
声を発したのはジヒョンの伯母、朴民恵(パク・ミネ 在日韓国人45)。
その言葉を聞き、ジョンテは頷く。
舞子たち、更に歩み寄り、ジヒョンの頬を撫でる。そして、ジヒョンの髪を引っ張る。
参列者たちから悲鳴があがる。その髪はウィッグ。現れたのは髪が完全に抜け落ちたスキンヘッドのジヒョンの顔。
「ばかやろー!死んじゃいやがって!」
「なんでだよ! ソウルでサムゲタン食わせてくれるって言ったじゃねーかよ!」
――時計が巻き戻る。回想。一年前。
大学の音楽室。舞子と、聡輔が気不味い雰囲気でいる。
「マンションは完全に引き払ってる。携帯も通じない。一体どこに行ったんだろ。まさかとは思うが」
「まさか、縁起でもない」
とスーリンと貴裕が飛び込んでくる。スーリンの想いに気がついた貴裕はそれを受け入れて二人は恋人同士になっていた。
スーリンは自分が勤める旅行会社の社長を通じ韓国領事館に問い合わっせてジヒョンの伯母、パク・ミネの家を突き止めたのだった。
ミネの家を訪ねる四人。そのすごい豪邸に気後れする。
「こんな家の子だったのか」
「治療する金なんか、一杯あるだろうに」
舞子たちは、出てきた家政婦にジヒョンに会わせてくれと懇願するが、「お嬢様は絶対にお会いにならないと仰有ってます」と門前払いされるのみ。
しかし諦めない舞子たちは、窓の下で呼びかけたり、入り口の前で待ち伏せしたりする。警察に連行されたりしながらも粘る舞子たちの前に或る日、ミネが出てきて、舞子とスーリンだけなら会うとのジヒョンの伝言を伝える。
自分も中に入れろと騒ぐ聡輔にミネは、「あなたにだけは会いたくない、という言葉は、あなたに一番会いたいという意味です。どうか気持ちを察してください」
緊張の面もちで、ジヒョンの部屋に入る舞子とスーリン。二人が目にしたのは、やつれて、帽子をかぶっているジヒョンの姿。舞子、スーリン、それでも駈け寄り、ジヒョンの手を握る。その腕には紫斑が出ている。
ジヒョン、帽子を取る。毛髪が完全に抜け落ちている。舞子に言うジヒョン。
「舞子、オメーにお願いがあるんだ。聡輔に言っておいて、もうあのジヒョンはいない。二度と会いに来ないで欲しい」
「髪がなんだって言うんだ! そんなことで私達の関係は変わらない!」
興奮して韓国語になるジヒョン。
「(韓国語)勝手な事言うなよ! あんたたちに私の気持ちがわかってたまるか!」
舞子、言いたいことは汲み取れる。
日本語に変えて切々と訴えるジヒョン。
「もう来ないで欲しい。オメーや聡輔といると……死ぬのが怖くなるんだよ。この病気になって、一度も死ぬのが恐いなんて思ったこと無かった。母さんのところへ行ける、そればかり考えていた。でも今は死ぬのが怖くなった、スーリンや舞子や聡輔のせいだ」
聡輔に会いたい、そのジヒョンの気持ちが舞子には痛いほどよくわかった。
舞子、ジヒョンの頬に自分の手を当てる。
「ジヒョン、またテキトーなこと言うなとか、怒らせるかもしんない。でも聞いて。わたし、あんたのこと嫌いになりそうだった……私に偉そうなことばかり言って自分は逃げてばかりでさ……。でも今日、今のあんたを見て、あんたを本当に好きになった。生きようとしてるんだろ。辛い治療受けてさ。素敵だよ、前の気取ったジヒョンより100倍くらい。悔しいけどさ、聡輔も同じ事言うと思うよ。絶対生きるんだよ、文化祭来てくれよ、『ネオ・パンドラ』絶対呼ぶから」
「オメーがあのマネージャー説得できるのか」
「やってみせる! 絶対」
ヒカリと対峙する舞子。以前とは打って変わって強いまなざし。白血病と闘う友の為にどうしても来てほしいと説得する舞子。
「同情なんかじゃないんです。ジヒョンに生きてほしいから」
「同情してやんなよ。思い切り。友達が同情してやんなくてどうすんの」
意外な返答のヒカリ、ネオ・パンドラを出演させることを快諾する。しかも『SPARK』もつけると言う。
「でもギャラはそんなに……」
「あんたみたいな小娘と金の話をしたら女がすたるよ」
数日後、再びジヒョンの前にいる舞子。なぜか帽子をかぶっている。
「オメーには来る義務がある」
舞子、帽子を取るとスキンヘッドになっている。驚くジヒョン。
「ちょっと演出に会わせて剃ってみた」
「舞子」
「ジヒョン、聡輔は会いたがってる。『ネオ・パンドラ』観に来てくれよ」
「でも……」
「聡輔を見損なうなよ! 髪の毛がなんだ! オメーの髪が抜けたくらいで、オメーのこと嫌いになったりするか!」
数週間後、世田谷大学の門の前に更にやつれ、ニット帽をかぶって立っているヒジョンの姿があった。迎えるのはロリ風ファッションから一変したスキンヘッドの舞子。そして一緒にいたスーリンと貴裕もスキンヘッド。驚くジヒョン。
「よっ、遅くなってごめん」
懐かしい聡輔の声がして、ドキッとして振り返ると、ロン毛に変わった聡輔が立っている。その格好を見て吹き出すジヒョン。
「久し振りだね」と聡輔がロン毛のカツラを外す。中は完全なスキンヘッド。
ジヒョン、聡輔たちの気持ちが嬉しくて、涙ぐみそうになる。
「どうかしてるよ、みんな」
「似合わないか?」
首を振るジヒョン、満面の笑み。
「ジヒョン、聡輔の頭になんか書いちゃえ」
聡輔の頭にハートマークを書くジヒョン。
× × ×
元の教会。四人、居住まいを正し、自分たちのウィッグを取る。全員がスキンヘッド。参列者たちから大きなどよめきが起こる。四人、丁寧に手を合わせる。
ジョンテがどよめきを抑えながら来て、舞子たちの前に立つ。ジョンテ、舞子とスーリンの手を取りゆっくり言う。
「(韓国語)ありがとう。君たちのお陰で、ジヒョンは人生を生きた。本当の意味で、ここはあの子にとっての本当の天国になったんだ。母が生まれた国で、君たちに会えたから」
同時通訳されるジョンテの言葉。
舞子、ジヒョンの亡骸を抱きしめる。そして堰を切ったように号泣する。スーリンもその場に座り込んで泣き出す。聡輔も貴裕赤ん坊の様に泣き出す。ジョンテ、四人の肩を抱いて、涙ぐむ。ネオ・パンドラの激しいビートが聞こえてくる。
× × ×
学園祭の舞台の上、ネオ・パンドラとSPRAKのパフォーマンスと共に見事なダンスを披露するスキンヘッドのジヒョンの姿。
周りを囲む舞子たち――飛び散る汗に生命の躍動感が聡輔のハートマークが上下する。それを見ながら踊るジヒョンの顔から飛び散る汗、生命の躍動感。ネオ・パンドラの激しいパフォーマンスに乗って、最高に眩しい5人の笑顔がはじけて――。